今日はそんな疑問を考える際に参考になる記事を見つけましたので共有いたします。
通訳・翻訳の“いま”がわかる情報媒体というコンセプトで、国内で唯一の定期媒体である雑誌の翻訳通訳ジャーナルからの抜粋です。
データ出典元:翻訳通訳ジャーナル
こちらの2020年の夏号に自動翻訳ツールと人間の翻訳の需要を研究した記事がございます。
上記の研究の結果に自分なりの考察の結果を追加してご紹介したいと思います。
ポイント
本記事の内容
現役の翻訳者ならびに翻訳会社による未来の翻訳業界の状況予測
上記の関しての考察
目次
人間の翻訳の需要
まずは下記を見ていきましょう。
自動翻訳ツールの影響で今後の人間による翻訳の需要は?
翻訳者の回答(自動翻訳ツールの影響で今後の人間による翻訳の需要は?)
こちらを見る限り大きく3種類のグループに分ける事が出来る様に思われます。
①.自動翻訳ツールにより何らかの危機感を感じているグループ:41人
②.自動翻訳ツールにより仕事が増える可能性があると感じているグループ:13人
③.その他(どちらにしても業界自体が縮小していく、関係ない):15人
①のグループに関しては同じ業界に所属していれば私も同様の危機感を感じたと思います。例えば仕事でも日常的に自動翻訳ツールを使いますが、1ユーザとしてのそれに対しての不満はかなり減ってきています。特に社内向けのドキュメントに関しては自動翻訳ツール(+自分たちで手直し)で十分と感じます。
そのためか自動翻訳ツールの入り込みにくい分野の仕事の受注を増やしたり、副業を始めるなどを検討している様でございます。
②のグループは個人的には非常に興味深いです。具体的にどの点でそう感じるのか記載はありませんが、私の考える所では「自動翻訳ツールにより今まで翻訳をする事がなかったクライアントが増え、結果として翻訳者が受注する仕事(Post Editがメイン?!)が増える」事は考えられます。
③に関しては客観的なデータに基づくと業界自体は伸びている傾向にあるとの事ですので、これに関しては今後の個人の振る舞いに依存するのかも知れないですね。
翻訳会社の回答(自動翻訳ツールの影響で今後の人間による翻訳の需要は?)
こちらも同様に大きく3種類のグループに分ける事が出来る様に思われます。
①.自動翻訳ツールにより何らかの危機感を感じているグループ:52社
②.自動翻訳ツールにより仕事が増える可能性があると感じているグループ:11社
③.その他(どちらにしても業界自体が縮小していく、関係ない):3社
個人翻訳者と比較した際の特徴として、翻訳会社の方がより何らかの危機感を感じている事が分かります。
ただしその内容としてすべての分野において仕事が減るのではなく、自動翻訳ツールが得意とする特定の分野において仕事の減少を危惧している様でございます。そのため今後は自動翻訳ツールを上手く使用するとともに、自動翻訳ツールではカバーしきれない分野での企業間での熾烈な争いが展開される事が予想されます。
個人的に考える事としてこれからは「翻訳+α」のサービス提供がより重要になってくると考えます。
例えばウェブページの翻訳の仕事一つとっても、ウェブページの来訪者に分かりやすい内容を意識するとともに、Googleのクローラーにも分かりやすい内容の翻訳を提供して、翻訳依頼者の目的を達成する事をより具体的に強くサポートするなどは今まで以上に大切になってくるのではないかと思います。
上記を踏まえて次は自動翻訳ツールの利用が増えていくと想像される分野に関してみていきましょう。
今後自動翻訳ツールの利用が増えると想像される分野は?
翻訳者の回答(今後自動翻訳ツールの利用が増えると想像される分野は?)
IT系(ソフト) | 45人 |
IT系(ハード) | 41人 |
特許 | 29人 |
法律・契約 | 26人 |
医学・薬学 | 23人 |
機械 | 23人 |
通信 | 20人 |
電気・電子 | 19人 |
半導体 | 16人 |
医療機器 | 14人 |
自動車 | 14人 |
情報サービス | 12人 |
金融・証券 | 11人 |
化学 | 11人 |
自動翻訳ツールの利用が増えていくと想像される分野は概ね私の想像と一致しております。
下記の記事でも以前紹介いたしましたがIT分野と自動翻訳ツールは非常に相性が良いと1ユーザとして感じますが、翻訳者の皆さんの認識もその通りの様です。また特許なども出願時のサポートが多いと思われますので、自動翻訳ツールの得意な分野になると思います。
-
利用目的別!おすすめ無料AI英語翻訳ツール比較-IT系Tech翻訳編-
現在IT会社に勤めていますので、日常的に英語を使う機会がございます。その中で日常的に英語翻訳ツールを使用しておりますので(特に頭が疲れて英語を読みたくない時)多くのオンライン無料翻訳ツールを試しており ...
翻訳会社の回答(今後自動翻訳ツールの利用が増えると想像される分野は?)
次に翻訳会社の回答を見てみます。
IT系(ソフト) | 37社 |
IT系(ハード) | 34社 |
法律・契約 | 28社 |
特許 | 27社 |
機械 | 26社 |
電気・電子 | 24社 |
自動車 | 22社 |
通信 | 19社 |
半導体 | 17社 |
情報サービス | 17社 |
医療機器 | 16社 |
医学・薬学 | 14社 |
Web | 13社 |
鉄鋼・金属 | 12社 |
金融・証券 | 11社 |
土木・建築 | 11社 |
エネルギー・原子力 | 11社 |
翻訳会社の回答も同様にIT分野での自動翻訳ツールの活用が進むと予想しています。こちらは恐らく既定路線となっていくのではないかと思います。
個人的に興味深いのはやはり翻訳会社の場合は土木・建築やエネルギー・原子力関係での自動翻訳ツールの活用が進むことを危惧している点です。こちらはオペレーションのマニュアルや製品説明になるのでしょうか。こちら実際の案件を見た事がありませんので分からない部分は多いですが、インフラに関わる部分でも自動翻訳ツールで十分対応出来るという部分にシステムの精度の高さを感じます。
翻訳者+翻訳会社の回答をまとめ(ベスト10:今後自動翻訳ツールの利用が増えると想像される分野は?)
上記の翻訳者と翻訳会社の回答をまとめたものが下記となります。
1位 IT系(ソフト) | 82 |
2位 IT系(ハード) | 75 |
3位 特許 | 56 |
4位 法律・契約 | 54 |
5位 機械 | 49 |
6位 電気・電子 | 43 |
7位 通信 | 39 |
8位 医学・薬学 | 37 |
9位 自動車 | 36 |
10位 半導体 | 33 |
非常に興味深い結果ですね。
やはり自動翻訳ツールと相性が良さそうな分野が並んでおります。
今後も人間による翻訳が必要だと思う分野は?
それでは逆に今後も人間による翻訳が必要だと思う分野に関して見ていきましょう。
翻訳者の回答(今後も人間による翻訳が必要だと思う分野は?)
出版・文芸 | 42人 |
字幕・映像 | 39人 |
マーケティング(広告・コピーライティング含む) | 38人 |
医学・薬学 | 11人 |
法律・契約 | 8人 |
金融 | 5人 |
特許 | 3人 |
医療 | 3人 |
政治 | 3人 |
経済 | 2人 |
エンターテイメント | 2人 |
こちらも概ね想像通りの結果となりました。特に個人として感じるのはこれまでの経験上マーケティング(広告・コピーライト)に関してはまだまだ人間による翻訳が必要だと思う分野だと思います。例えばその国の国民性やユーザの好みなど考慮すべき要素が多く画一的な自動翻訳ツールでは難しい様に感じます。しかしながら例えば自動翻訳ツールを使用する際にオーディエンス情報などを入力出来て、それに応じてシステムが分析をして自動翻訳をしてくれる様なシステムがあれば試してみたいとは思います。
翻訳会社の回答(今後も人間による翻訳が必要だと思う分野は?)
マーケティング(広告・コピーライティング含む) | 40社 |
字幕・映像 | 28社 |
出版・文芸 | 26社 |
Web | 4社 |
法律・契約 | 4社 |
金融 | 4社 |
特許 | 3社 |
医療 | 3社 |
観光 | 3社 |
政治 | 2社 |
医学・薬学 | 2社 |
医療機器 | 2社 |
こちらも圧倒的に数値が偏っております。マーケティング(広告・コピーライティング含む)、字幕・映像、出版・文芸とやはり人間の情緒や文章の背景を理解(出版であれば対象の読者の心情など)して初めて対応可能な領域に関しては引き続き人間による翻訳が必要だと思っている事が分かります。確かにその通りかと思いますが、例えばネットBook等で自分の属性(言語、好みなどなど)を入力する事で、それに応じた自動翻訳の結果が出るなどのシステムが出れば、自動翻訳ツールもとても面白くなると思いますが、現時点ではまだまだ実用されそうな感じはないですね。
翻訳者+翻訳会社の回答(ベスト10:今後も人間による翻訳が必要だと思う分野は?)
1位 マーケティング(広告・コピーライティング含む) | 78 |
2位 出版・文芸 | 68 |
3位 字幕・映像 | 67 |
4位 医学・薬学 | 13 |
5位 法律・契約 | 12 |
6位 金融 | 9 |
7位 医療 | 6 |
8位 特許 | 6 |
9位 Web | 5 |
10位 政治 | 5 |
圧倒的な偏りが出ておりますね。これからは自動翻訳ツールの隙間を縫って、翻訳業界ではこの分野に対して熾烈な戦いが発生する可能性が高いです。ただし同時に翻訳のニーズ自体は増えておりますので、分母自体も増えていくと思います。特に映像に関しては2021年までにオンライン上のコンテンツの80%が映像になるとの予測(その詳細は下記の記事にございます)もありますのでその伸びが期待できます。
自動翻訳ツールの台頭と翻訳者の将来についてどう考えるか?
最後に翻訳者が感じる翻訳者の将来についてです。
翻訳者の回答(自動翻訳ツールの台頭と翻訳者の将来についてどう考えるか?)
約70%の翻訳者がその将来に関して危機感を感じております。具体的な打ち手として「情報収集」、「仕事のポートフォリオの見直し」、「方向性の変更」などに取り組んでいる様です。ただ一方で現状では特別な打ち手を打っていない翻訳者も多い様です。自動翻訳ツールの改善は非常に速いために具体的な対策が打ちづらいというのが状況の様です。
こちらに関しては今後も注視すべきポイントになると思います。
まとめ
ここまでのまとめ
自動翻訳ツールの台頭による業界の変化は目まぐるしいものがあります。業界の規模自体は大きくなるとの予想がありますが、それは自動翻訳ツールが担う部分になる可能性が現時点では高い様に思われます。そのため業界の再編や価格破壊も含めて個々が準備していく必要がある様に思います。
本日の記事のまとめを記載いたします。
ポイント
自動翻訳ツールの台頭による業界の変化は目まぐるしいものがある
業界の規模自体は大きくなるとの予想がある(自動翻訳ツールが担う部分になる可能性が現時点では高い)
業界の再編や価格破壊も含めて個々が準備していく必要がある
データ出典元:翻訳通訳ジャーナル
それでは失礼いたします。